夏の日差しがやってきた!
そんな日は絶景デイハイクにでかけたい。
箱根は温泉だけじゃない。多くの人は、箱根といえば温泉、温泉といえば箱根と思うかもしれない。それほどの日本有数の温泉観光地だが、私は温泉にそこまでときめかない。ただ体を洗う場所としか考えていないのだ。

木漏れ日の石畳を歩いていると、浄化された気分になる。
山登りを始めてからというもの、八ヶ岳にある日本一高所の野天風呂「雲上の湯」や上杉謙信の隠し湯「蓮華温泉」、水平歩道から剱岳へ向かう途中にある秘湯「阿曽原温泉」など、温泉マニアにはたまらない温泉に入ってきた。いや、山登りのついでに入ってきたといったほうが正しいかもしれない。雰囲気もあり気持ちのいいものではあったが、熱い湯が苦手でのんびり入っていられないため、サッと体を洗って出てしまう。

残雪がある富士山はとてもフォトジェニック。
そんな私にとって箱根は温泉よりもデイハイクにもってこいのエリア。都心から約2時間と近く、なんといっても歩きやすい。道はしっかりと整備されており、金時山をはじめ、関東から多くの登山者も訪れる。稜線上はところどころ視界も開けていて、ときおり吹く風も心地よい。なにより、森林限界を超える山を歩くには、なかなか日帰りでは難しく、パッと思い立って仲間と登山に向かうには少々ハードルも高い。だからこそ、天気のいい休日はデイハイクで近場の山を歩きたい。

明るい広葉樹のトンネルも心地よい。
目指す丸岳(標高1156m)は樹林や笹に囲まれているが、日差しがつねに降り注ぐ尾根道歩きが続く。きっとアセもいっぱいかく。そこで持っていくことにしたのが「シーブリーズ」だ。部活でサッカーに明け暮れた学生時代、とてもお世話になったアイテムだが、卒業を機に手元に置かなくなっていた。山で使うイメージはなかったのだが、登山を始めてアセをかく喜びが再び快感となり、強い紫外線を浴びた肌のケアと、アセをかいたあとの肌をサラサラにしてくれたことを思い出し、今回の山行に持っていくことにした。

男性は肌のケアを疎かにしがちなので、小休憩の際で もこまめに塗るといい。熱をもちやすい首周りは、クールダウンさせることで暑さ対策にも効果的だ
稜線に出ると眼下には芦ノ湖、目の前には大涌谷の湯気が山肌に沿って立ち昇るのが見え、反対側には富士山と駿河湾が広がっている。両サイドをビューポイントに囲まれ、ハイカーやトレイルランナーに人気なのも頷けるルートだ。箱根旧街道の石畳では、昔の人がどういう思いでこの道を進んだのかと、思いをはせながらピークを目指した。

丸山山頂に差し掛かる尾根道は、大涌谷や芦ノ湖方面への大展望が広がっている。
日帰りで登山を楽しむのなら、ただピークを踏むだけではなく、山を登ってこその風景とコーヒーは欠かせない。コーヒーはインスタントではなく手間をかけて豆から挽き、その間にする仲間との会話が心地よい。カップに落ちていく一滴一滴と、スローに動いているように見える芦ノ湖の遊覧船を眺めていると、せわしない日常を忘れさせてくれた。この一杯のために、山頂を目指す人も少なくないのではないだろうか。

コーヒー用のギアを揃えるのも楽しい。標高によって栽培されるコーヒー豆の品質が変わるように、飲む環境によって味も変わる。
道程での苦労やたわいもない会話、山から見る風景を共感しながら、仲間といっしょにアセをかいてトレイルを歩いていると、また学生時代のことを思い出した。それと、自ら進んでアセをかくことの楽しさも。そんな爽やかな気持ちにしてくれたのも、シーブリーズを持ってきたからかもしれない。

山頂に着いた達成感とともに味わうコーヒーは格別
登山口まで下りてきて、シーブリーズで火照った肌をクールダウンさせた。昔と変わらず肌がサッパリする。今シーズンから山道具リストに加えてみようか。
猪野正哉
アウトドアライター/モデル。千葉県に「たき火ヴィレッジ〈いの〉」をオープンさせ、焚き火の魅力を発信 中。現在はロケーション撮影、イベント開催時のみ開放している
文◎猪野正哉 Text by Masaya Ino
写真◎宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami