
「明後日は大雨の予報だから、13時までに栂海山荘に着いて、今日中に白鳥小屋まで行ければラクになりますよ」
清水さんに見送られて朝日小屋を後にしました。いよいよ栂海新道へと足を踏み入れます。
まずは樹林帯を登って朝日岳頂上へ。ほどなくしてこんもりとした頂上に到着。
今年から、朝日小屋のお弁当は「ますの寿司」と「クルミとシイタケ・かんぴょうの甘辛煮が載ったお寿司」になったということで、さっそく頂上でますの寿司をひとつ。
富山の業者さんに特注しているというこのお寿司。マスの味はもちろん、笹の葉の香りがほんのりとして、マイルドな酢飯の酸っぱさがおいしい。マスの寿司は富山名物として知っていましたが、クルミとシイタケ・かんぴょうの甘辛煮も富山ではお馴染みの寿司なのだそう。クルミの食感と香ばしさがクセになるおいしさです。
朝日岳を越えると風が強まり、風景も一変、木々が少なくなりました。日本海からの風がそのまま吹き付ける北斜面。過酷な環境なのはすぐにわかります。
黒岩山までの風景が素敵だと清水さんから聞いていましたが、とくに長栂山付近の風景は格別でした。草原のなかにふたつの池が静かに佇み、遠くには白馬岳の山並みが連なっています。なんて素晴らしいトレイルなのだろうと、思わずバックパックを下ろして休憩。
その後も地溏が点在する気持ちの良い道を歩いていくと、遠くの山の上に小さな山小屋がポツリと見えました。黒岩山手前の水場で水浴びをしてアップダウンのある尾根道へ。ここからが暑かった。
見るからに水分に乏しい道。雲もなく風もなく、標高が低くなったぶん、尋常じゃない暑さです。栂海山荘には13時前に到着したものの、この暑さのなかを白鳥山荘まで4時間歩き続ける気にはならず、栂海山荘で泊まることにしました。
翌日は朝から大雨。しかし、そのおかげで暑さが和らいでくれました。白鳥山荘に着く頃には雨も上がり、長い長い尾根道を歩き続けると突然車道が見えました。階段を下って海へ。
ゴール地点の親不知は、小石と断崖に囲まれた小さな入江でした。雨はすっかり上がり、青空も見え始めていました。
わずか3泊4日の山旅だったけれど、劇的に変化する風景と朝日小屋での出会いなど一日一日が濃厚だった栂海新道の山旅。
さあ、いよいよ夏本番です!
【第1回】山の小屋から http://sharethemt.com/pleasure-1606
【第2回】夏になったら―― http://sharethemt.com/pleasure-1748
【第3回】北アルプス、そのまた北へ(前編) http://sharethemt.com/pleasure-1969
【第4回】北アルプス、そのまた北へ(中編) http://sharethemt.com/pleasure-2043
- 成瀬洋平
- Yohei Naruse
1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp