上級

2017.8.17

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筆とまなざし #054「潔い子どもたちと、夏の高尾山で山のスケッチ教室」

先日は日帰りで、遠路はるばる高尾山に行ってきました。「山でスケッチをしよう」という子ども向けフリーマガジンの企画で、講師役の絵描きのお兄さんになるためです。

始発電車に乗って高尾山口に着いたのは10時。以前は京王線沿いに住んでいましたが、じつは高尾山に登るのは今回が初めて。こういう機会がないと一生来なかったかもしれません。

今回の取材には3家族が参加しました。小学生の女の子が2名、男の子が1名、幼稚園児が2名で、親御さんが4名、編集ライターとカメラマン、そしてぼくの合計12名という大所帯。高尾山の頂上まで行き、小学生の3名に水彩画のレクチャーをするというものです。小学校でも配布されるらしく、ただ単に絵を描くだけじゃなくて、写生大会などでも参考にできるようにハウツー部分も充実させてほしいということでした。

案の定蒸し暑い高尾山。ケーブルカーを使って高度をあげると少しだけ涼しくなりました。ああ、ここが噂のビアガーデンか、と思いながら素通り。なるほど、高尾山は山と行っても全部コンクリートで舗装された道なんですね。ほかの参拝ルートは山道なのでしょうか。煩悩を落としてくれるという男坂を登り、開運を祈願して欲望を増やします。途中にお堂などがありますが、この日は午後から雨予報なので急ぎ足で頂上を目指しました。道自体は単調で、飽きてきたころ頂上に到着。平日にも関わらずけっこうな人で賑わっていました。

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簡単に昼食を食べてスケッチ開始。子どもたちに用意したのは、学校で使う不透明水彩ではなくて固形の透明水彩絵具。まず、下絵の描き方のポイントを説明したあと、絵具の使い方をレクチャーしました。水彩絵具の代表的な技法、「ぼかし」と「にじみ」をやってみると女の子の目が輝き出しました。

「おもしろいでしょう!」

そういうとこっくりうなずきます。よしよし、こうなったらもうこっちのもの。実際に少し風景を描いてみると、要領も分かったようすだったので、さっそく描いてもらうことにしました。

「葉っぱはどうやって描いたら良いの?」
「1枚1枚描くのは大変だから、塊で描いて絵具で色を塗ると良いよ」
「できるだけ水をたっぷり使うと透明感があってきれいな絵になるよ」

大人は思い切りがなくなかなか水をたくさん使えないものですが、子どもたちは潔い。考えすぎないのが良いのかもしれません。たっぷりの水で溶いた絵具の透明感のある色が画用紙いっぱいに広がっていきます。にじみを使った青い山並み、爽やかな夏の木の葉が印象的。14時ごろになると雨が降り出し、スケッチは強制終了となりました。

「今日使った絵具は持ち帰って良いですよ」

ライターさんがそう言うと、女の子が飛び跳ねて喜びました。ああ、うれしい。今日という日が、この子の人生において、なにかしら良いきっかけになってくれたら。そう思わずにはいられません。はるばる夏の高尾山まで来て良かったなと思った瞬間でした。

 

【連載一覧】
#001 山の小屋から
#002 夏になったら――
#003 北アルプス、そのまた北へ(前編)
#004 北アルプス、そのまた北へ(中編)
#005 北アルプス、そのまた北へ(後編)
#006 真夏の小さな物語
#007 初めてのマルチピッチ(前編)
#008 初めてのマルチピッチ(後編)
#009 星野道夫さんに会いに行く
#010 吉田 博と「劔山の朝」
#011 上高地スケッチ絵画講座、開講
#012 偉い! とうなったおすすめギア
#013 ドロミテ山塊へのクライミングトリップ
#014 笠置山クライミングエリアの開拓
#015 秋のよろこび、中津川の味覚「栗きんとん」
#016 ようこそ ようこそ 笠置山クライミングエリア
#017 カフェのご主人、お客さんと、秋の野外水彩画教室
#018 3代目の山道具、ラ・スポルティバのボルダーXミッド
#019 山と道具の2017年カレンダー
#020 ちびっ子クライマーたちの外岩デビュー
#021 鍛金ワークショップで自分だけの山道具を作る
#022 太平洋に面した“最果ての地”のクライミング
#023 菊池哲男さんが写した、美しきアルプスの星夜
#024 憧れのヨセミテと、クライミング計画2017
#025 アウトドア文化としてこの地域に根差すために
#026 年末年始の相棒に、拳大の小さなストレッチギア
#027 中津川のお正月。明けましておめでとうございます
#028 名古屋で『吉田博 木版画展――抒情の風景』を見る
#029 名古屋の古着屋でめぐり合った、お守りのカラビナ
#030 徳島県は日和佐海岸へ、6日間のクライミングトリップ
#031 展示会シーズン! 笠置山クライミングエリアのために
#032 長衛小屋の手ぬぐいと、カモシカスポーツのTシャツ
#033 すてきな山の紙モノを見つけられる『アラスカ文具店』
#034 クライミングトリップの新しい相棒は超大型ギアバッグ
#035 東海の名物ルート、運否天賦(5.13c)にご対面
#036 笠置山クライミングエリアでアウトドアフリマを開催!
#037 特注品もオーダーできるナンガのコンセプトショップ
#038 笠置山クライミングエリアで講習会を開催します!
#039 早春の根ノ上高原から、残雪の恵那山を見上げる
#040 初めての笠置山登頂は高橋庄太郎さんといっしょに
#041 日本百名山・恵那山の麓で原画展を開催します
#042 自然の造形と想像力。初めてのアウトドアクライミング
#043 アメリカ、赤茶けた大地へのクライミングトリップ
#044 アメリカ、インディアンクリークでのクラック強化合宿
#045 南アルプスを描いた山梨県・白山でのスケッチ教室
#046 クライムオン!! でトラッドクライミング入門講座
#047 穏やかな春の味覚。山菜と木曽地方の朴の葉料理
#048 ついに念願叶ってインストラクター資格を取得
#049 アラスカ、アンカレッジ取材で出合った老舗登山用品店
#050 複製画も並ぶ展覧会『北アルプスの風景』を開催します
#051 アメリカ西海岸の風が吹くナチュラル アンカーズ
#052 夏の一日、森をめぐる物語
#053 アルパインクライミングで楽しむ夏の八ヶ岳

 

成瀬洋平
Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp

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