上級

2017.11.15

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筆とまなざし #068「マムシ草と鬼吉。幼き日々の『子ども発表会』の記憶」

山のなかにひっそりと生える、赤い実をつけた植物。おどろおどろしくてグロテスクでなんだか無気味。褐色の葉を垂らし、茎にはマムシの体のような模様があります。マムシ草。この植物を見ると、小学生だったときのことを思い出します。

毎年秋になると文化祭がありました。「子ども発表会」という名前で、各クラスごとに演劇を発表します。何回も練習して台詞を暗記、大道具、小道具なども作って臨むこのイベントが、ぼくはけっこう好きでした。日に日に寒くなり、どんどん日が短くなる秋の一日に、真っ暗な体育館で行なわれる「子ども発表会」。暗幕の袖で待機したり、スポットライトに当たったり。それはいつもとは違う異界にいるようで、自分にとってはものすごく特別な時間だったのです。

小学校3年生のとき、「やさしい鬼吉」だったか「かわいそうな鬼吉」だったか、とにかく鬼の子どもが登場する物語を演じました。みんなから怖いと畏れられる鬼の男の子。でも本当はとてもやさしい。しかし、村でなにか悪いことが起こったときに鬼吉が犯人にされてしまいます。鬼吉は逆に村人のために自分を犠牲にしていたのだけれど、誤解が解けるのは鬼吉が村を出て行ってしまってから……たしか、そんな内容の物語でした。

さて、そのなかに「鬼吉草」という植物が登場しました。鬼吉草。いったいどんな植物なのか。みんなで話合いますがなかなか良いアイデアが浮かびません。そんなとき、学校への登下校の道で見つけたのが不思議な赤い実をつけたマムシ草でした。当時は名前など知らず、ただただ無気味なその姿が鬼を連想させて「これだ」と思ったのです。湿気の多い場所に生えるのも陰鬱な印象でした。1本取って学校へ持って行って先生に話したところ、このマムシ草が「鬼吉草」に決まったのです。

それ以来、マムシ草を見ると「鬼吉草」を思い出します。同時に「子ども発表会」で感じていた異界の肌触りを感じたり。それは暗く、寒い冬の始まりを予感させるものでもありました。あれから20年と少ししか経っていないのに、いまの暮らしではそんな時間はすっかりなくなってしまいました。スマホをいじっていると夜の闇を感じることもありません。明るいことだけが良いことではない、闇のなかにこそなにかを生み出す源泉がある……。薄暗い山に人知れず生えるマムシ草は、そんなことを語りかけているようです。

 

【連載一覧】
#001 山の小屋から
#002 夏になったら――
#003 北アルプス、そのまた北へ(前編)
#004 北アルプス、そのまた北へ(中編)
#005 北アルプス、そのまた北へ(後編)
#006 真夏の小さな物語
#007 初めてのマルチピッチ(前編)
#008 初めてのマルチピッチ(後編)
#009 星野道夫さんに会いに行く
#010 吉田 博と「劔山の朝」
#011 上高地スケッチ絵画講座、開講
#012 偉い! とうなったおすすめギア
#013 ドロミテ山塊へのクライミングトリップ
#014 笠置山クライミングエリアの開拓
#015 秋のよろこび、中津川の味覚「栗きんとん」
#016 ようこそ ようこそ 笠置山クライミングエリア
#017 カフェのご主人、お客さんと、秋の野外水彩画教室
#018 3代目の山道具、ラ・スポルティバのボルダーXミッド
#019 山と道具の2017年カレンダー
#020 ちびっ子クライマーたちの外岩デビュー
#021 鍛金ワークショップで自分だけの山道具を作る
#022 太平洋に面した“最果ての地”のクライミング
#023 菊池哲男さんが写した、美しきアルプスの星夜
#024 憧れのヨセミテと、クライミング計画2017
#025 アウトドア文化としてこの地域に根差すために
#026 年末年始の相棒に、拳大の小さなストレッチギア
#027 中津川のお正月。明けましておめでとうございます
#028 名古屋で『吉田博 木版画展――抒情の風景』を見る
#029 名古屋の古着屋でめぐり合った、お守りのカラビナ
#030 徳島県は日和佐海岸へ、6日間のクライミングトリップ
#031 展示会シーズン! 笠置山クライミングエリアのために
#032 長衛小屋の手ぬぐいと、カモシカスポーツのTシャツ
#033 すてきな山の紙モノを見つけられる『アラスカ文具店』
#034 クライミングトリップの新しい相棒は超大型ギアバッグ
#035 東海の名物ルート、運否天賦(5.13c)にご対面
#036 笠置山クライミングエリアでアウトドアフリマを開催!
#037 特注品もオーダーできるナンガのコンセプトショップ
#038 笠置山クライミングエリアで講習会を開催します!
#039 早春の根ノ上高原から、残雪の恵那山を見上げる
#040 初めての笠置山登頂は高橋庄太郎さんといっしょに
#041 日本百名山・恵那山の麓で原画展を開催します
#042 自然の造形と想像力。初めてのアウトドアクライミング
#043 アメリカ、赤茶けた大地へのクライミングトリップ
#044 アメリカ、インディアンクリークでのクラック強化合宿
#045 南アルプスを描いた山梨県・白山でのスケッチ教室
#046 クライムオン!! でトラッドクライミング入門講座
#047 穏やかな春の味覚。山菜と木曽地方の朴の葉料理
#048 ついに念願叶ってインストラクター資格を取得
#049 アラスカ、アンカレッジ取材で出合った老舗登山用品店
#050 複製画も並ぶ展覧会『北アルプスの風景』を開催します
#051 アメリカ西海岸の風が吹くナチュラル アンカーズ
#052 夏の一日、森をめぐる物語
#053 アルパインクライミングで楽しむ夏の八ヶ岳
#054 潔い子どもたちと、夏の高尾山で山のスケッチ教室
#055 雨続きの8月、クライミングエリアの開拓にひと汗かく
#056 岐阜から岡山まで、ぶらり大人の青春18きっぷの旅
#057 小川山のフリークライミングと檜枝岐の沢登り
#058 夏の終わり、秋の気配
#059 小川山のクレイジージャムをめぐる思い出
#060 彼岸花の咲くころに。近場に隠れる美しい風景探し
#061 心地よい秋晴れの午後、笠置山までちょっと登りに
#062 御在所岳、東海地方のクライミング・ゲレンデ
#063 10月の3連休。季節の変わり目の岐阜暮らし
#064 移ろう季節、アトリエ小屋の裏庭にアケビが実る
#065 三崎海岸に登り鳥海山を歩いたクライミングトリップ
#066 山小屋の棚に仲間入りしたホーローと樹脂のマグカップ
#067 ボルダ―開拓に、色づいた落葉。晴れが続く秋の日

 

成瀬洋平
Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp

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