ピークス

2018.1.24

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筆とまなざし #076「小豆島の拇指岳でマルチピッチクライミング(後編)」

1ピッチ目のグレードは5.9ですが意外と悪い。クラックを抜けて少々脆いフェイスを登り、1ピッチ目と2ピッチ目をつないでラッペルステーションのある終了点へ。話に聞いていたとおり、大きな浮き石があったりホールドが剥がれそうだったりと少々緊張するクライミングです。プロテクションはカムや木、古いRCCボルトやリングボルト。プロテクションが取れる箇所は限られているし、大きくトラバースする箇所もあるためするためダブルロープにしましたが、これが正解でした。下降も懸垂で一気に下る計画です。

2ピッチ目は少し被ったフェイス(5.10bくらい)からスタート。その後は左上して少々悪い凹角を抜けると快適なテラスに終了点がありました。ここまで来ると港が一望でき、高度感も抜群! しかし、日が陰り風が吹きはじめるとなかなかの寒さです。薄いフリースを着てこなかったことを後悔しつつ身体を震わせながらセカンドをビレイ。

3ピッチ目を見上げると、薄かぶりのきれいなフェイスが、ここを登れとばかりに聳えたっていました。フェイスを乗り越したところにテラスっぽいものがあります。そのあたりに終了点があるのだろう。被った箇所は身体をひねりながらすばやくこなし、ホールドの向きの悪い抜け口を越える。しかしそこに終了点はなく、比較的新しいリングボルトがポツンとひとつだけ打たれていました。その上の腐ったリングボルトには風化したスリングが風に揺らめいていました。リングボルトの上はホールドの乏しそうなフェイス。左にトラバースしてルートファインディングしてみるけれど、そちらはさらにホールドのなさそうなスラブでしかもカムが使えるクラックもない。ライン的にも、真上のフェイスを登るのがもっとも合理的のように思えました。剥がれそうなフレークに気休め程度に小さなカムをセット。だいたいのムーブの見当をつけて登り出しました。ホールドが欠けないことを祈りつつ、数手で悪い箇所を抜けると、あとはやさしいスラブになってほっとひと安心。右上のテラスに終了点がありました。クライミング歴2年のパートナーは、薄かぶりのフェイスに手こずりながらも、最後のフェイスは順調に登ってきました(帰宅後に調べてみると、この部分は5.9,A0、フリーだと5.10d〜11aくらいとのこと)。

尖った頂上がだいぶ近くなりました。左上するスラブを登り、クラックを直上。岩峰の右肩に出てからやさしいスラブを登ると、そこがまさに拇指岳の狭い頂上でした。

あたりを見渡すと、眼下に冬枯れの森が続き、谷が開けた場所に小さな港町が見えました。穏やかな瀬戸内海が、傾きかけた光を反射させています。まさに山頂から眺める格別の風景です。

今回の小豆島クライミングトリップは、昨年ガンで亡くなった知人のおじさんがきっかけでした。生前に見せてくれた小豆島でのクライミングの写真。若い日にこの岩場を訪れたおじさんは、どんなことを思いながらこの岩を登ったのでしょう。きっと頂上から見る風景も、手で持ったホールドも、その感触も、数十年前とほとんど変わっていないに違いありません。

 

【連載一覧はこちら!】

 

成瀬洋平
Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp

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