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2018.4.4

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筆とまなざし #084「画を描き岩に攀ったクライミングの先導者、上田哲農」

いつもより早い桜の開花。このあたりでは入学式のころにちょうど満開を迎えるのですが、今年はもうあちこちに薄紅色の桜の花が誇らしげに咲きました。日向の土手に目を向けると、細長い土筆がすっくと天に向かって伸びています。朝露に濡れた土筆を、今晩は恒例の卵とじだなと思いながら摘みました。袋がなかったのでコンビニで買ったアイスコーヒーのカップに入れたらちょうど良い塩梅。花束ならぬ土筆束になりました。

「これ、手違いで2冊あるからあげます」

山関係の古本を収集している知人からそういって渡されたのは、ヨーロッパの本かと思うような装丁に古めかしいハードカバーでした。表紙がところどころ破れ、紙が黄ばんでいるのがなんとも味わいのある1冊です。

『日翳の山 ひなたの山』上田哲農

日向で土筆を取っていただけに、なんだか印象的なタイトルです。発行は昭和33年。いまからちょうど60年前です。上田哲農は画家で、この本は彼の山行を題材にした画文集。詩的な短文に水彩やコラージュ作品が挿絵として添えられています。

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上田は登山家としても知られており、日本登高会の設立や第2次RCCの結成にも関わったといいます。RCCというのは日本の岩登りを率先した山岳会で、創立者は藤木九三。第2次RCCはその流れを汲む山岳会としてちょうど『日翳の山 ひなたの山』が発行された昭和33年に設立されました。第2次RCCは日本の“ロッククライミング”のルート図集を発行したり、日本の岩登りのグレード、いわゆる「RCCⅡグレード」を定めたりと、とにかく日本の“ロッククライミング”を先導してきた山岳会なのです。当然、上田もクライマーであり、谷川岳や北アルプスの岩場でルート開拓にも取り組んだといいます。

上田哲農について、名前と絵を知っていただけでそれほど知識はなかったのですが、とてもおもしろいと思うのが、画家である人間が“なんちゃって”ではなく、かなりコアなクライマーとして活躍していたという点。そしてそれを、絵や文章として表現している点です。当時はかなりの覚悟と情熱がなければクライミングはできなかったでしょう。現在のように、ファッションでボルダリングを始められるわけではありません。

いま、このタイミングでこの本を譲り受けたのもなにかの縁でしょうか。知人に感謝しつつ、味わいながら読み進めたいと思います。

さて、そろそろ日が傾いてきました。土筆の袴を取って卵とじに取りかかるとしましょう。

 

【連載一覧はこちら!】

 

成瀬洋平
Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp

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