ランドネ

2017.12.29

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四角友里のにっぽん“食”名山#10「甘酒茶屋の甘酒」

冬が来ると、祖母が作ってくれた甘酒のことを思い出します。酒粕で作った祖母の甘酒は、独特の香りと味が強くって、いまだから正直にいうと、母の作るもののほうが好きでした。でも、学校から帰ったときに漂う香りや、初詣の待ち時間に「帰ったらみんなで飲もうね」と毎年繰り返してきた会話。何度もおかわりをし、頬が火照ってくると「そんなに飲んだら酔っ払うよ!」と笑われる、お決まりの家族の光景を懐かしく思います。――そんな甘酒は子どものころから変わらず、大好きな飲みもののひとつです。
(※酒粕の甘酒にはアルコール分が1%未満含まれますが、米麹の甘酒には含まれません)

2013年の冬、朝ふと思い立って、ひとりで箱根へハイキングに出かけました。目的地(=食)は江戸時代から400年以上続く「甘酒茶屋」の『甘酒』。箱根の旧街道や湯坂路など、古道歩きハイキングにおすすめの立ち寄りスポットです。

▲石畳の道などを歩く旧街道は、箱根湯本駅から甘酒茶屋まで3時間の道のり。江戸時代の古道歩きが楽しめる

歴史的な背景を考えると、本来は箱根旧街道を歩くのが甘酒茶屋への“正しい立ち寄り方”なのですが、私はとある理由があり、屏風山を選びました。

箱根関所跡バス停で下車してハイキング道へ入ると、傾斜の激しい階段が現れ、最初はひたすら上り道が続きます。

そして歩き始めて約30分。じゃじゃんっ!  標識の行き先に甘酒茶屋と書かれた看板が登場!! 
……そう、私はこの標識に導かれたいがために屏風山へと来たのです。

▲誰もいない静かな山歩き。屏風山山頂にて

標識に“おいしい”単語が入っているから、容赦ない急登だってなんのその。眺望がなくたって気にしない。私の足とココロの進むべき道は、常に【→甘酒茶屋】の方向。看板に書かれた「甘酒」の二文字を見るたびに、私の甘酒への想いは、強く熱くなっていくのです。

▲まるで鼻先に人参をぶら下げられた状態。食いしん坊にはたまらん!

2時間ほどで山歩きを終え、石畳の細道と車道に出ると、まるで時代をさかのぼったような錯覚に陥る杉皮葺きの茶屋に到着しました。

▲建物は2009年に改築されたものだが、歴史を感じさせる風情ある佇まい

趣のあるほの暗い店内に、白く輝く甘酒が運ばれてきます。凍えた手で湯呑みを包み、口に含むと「おいしい〜」と思わず声が漏れました。やわらかく優しいふくよかな甘みが広がり、体が温まります。これが400年、守られている味。「東海道五十三次の難所」といわれた箱根で、旅人が一服し、元気を取り戻した味です。甘酒茶屋の甘酒は、砂糖などの添加物をいっさい加えず、地場産のうるち米と米麹だけで作られていて、発酵によって生まれる自然の甘みは「沁み入る」という言葉がぴったりでした。

▲米麹の甘酒は、甘さも控えめの素朴な味。酒粕の甘酒とちがい、米麹の甘酒はアルコール成分ゼロ。「酒」という文字が入るけれど、米麹の甘酒はノンアルコールなので山歩きで疲れた体にぴったり♪  添えられている蕗味噌もおいしい

▲毎朝、昔ながらの臼と杵の手作業でついている力餅。備長炭の火で焼かれていて香ばしく、まだまだ歩けそうな力が湧いてきます!

最近では〝飲む点滴”とも呼ばれている米麹の甘酒。砂糖が貴重だった江戸時代においても、栄養価に優れるエネルギー源でした。ちなみに江戸中期以後、夏バテ防止に! とうたって売り歩く甘酒屋の姿は夏の風物詩となっていたそう。そのため俳句では「甘酒」は夏の季語!! 甘酒茶屋でも夏になると「冷たい甘酒」がメニューに加わります。

▲昔、東海道を旅した人々もここで一服していったと思うと感慨深い。甘酒はまさに日本古来のエナジードリンク!

かつて箱根峠にたくさんあった茶屋のなかで厳しい時代をいくつも経ながらも、ただ一軒、暖簾を掲げ続けている甘酒茶屋。いまも年中無休、変わらぬ味で旅人をもてなしてくれます。営業時間は、日の出から日の入りまで。毎日、夜明け前の午前3時から仕込みを始め、早いときには午前5時半、冬でも7時にはお店を開けると聞いてびっくりしました。それは、たとえ一人でも街道を歩くひとがいるならば……という「峠の茶屋」としての信念だそう。

▲気候によって仕込みを調整するという秘伝の作り方は、代々受け継がれてきた技

先代とともに働く若旦那は、この旧街道(旧東海道)の西の終点である京都・三条大橋の懐石料理屋さんで料理人として13年修行したのちに、13代目を継いだそうです。けれど甘酒茶屋の伝統を大切に守り、提供するのはあくまで昔ながらのメニューのみ。……江戸から京をつなぐ一本の道の、ひとの行き来を支える“通過点”として。400年という大きな時間軸のなかの、さまざまな旅人の安らぎの“一瞬”として。甘酒茶屋は、歴史や道、想いを「つなぐ味」を作り続けているのです。

いまも昔も、歩いたあとの甘酒が体にやさしく沁みわたる「おいしい」という幸福感は、時代を超えてもきっとおなじ。私も、歩き、食べることで、歴史をつなぐ一部になれました。

************************

箱根関所跡バス停から甘酒茶屋までは、屏風山経由で約1時間半のハイキング。急登の階段のあと、竹笹から広葉樹へと変化する道を進み、小さな鞍部にでると屏風山の山頂(948m)です。豊臣秀吉の小田原攻めの際に、北条氏が見張り台として使った場所ということなので、当時は見通しの良い山だったのでしょうね。旧街道に佇む甘酒茶屋は、かつては旅人が無事に箱根の関所を越えるべく身支度を整えたり、関所を通過できた旅人がほっと小休止をとる場所だったそう。江戸時代から変わらぬ味の甘酒のほか、毎朝、杵でついたお餅を炭火で炙った力餅も人気。味は「いそべ」「うぐいす」、すりたてゴマの限定品「黒ごまきな粉」の3種類あり、ひと皿に二つのお餅がのって500円。箱根登山バス「甘酒茶屋」下車すぐ。旧街道を歩き、畑宿などまで足を延ばすのもおすすめ(+50分)。

Data:甘酒茶屋
神奈川県足柄下郡箱根町畑宿二子山395−1 
TEL.0460-83-6418
営業時間:日の出~日の入りまで(だいたい7:00〜17:30)
休み:なし
甘酒400円
http://www.amasake-chaya.jp/

写真◎四角友里、矢島慎一

【連載一覧はこちら!】

四角友里
Yuri Yosumi

アウトドアスタイル・クリエイター。執筆、講演、ウェアの商品開発などを通しメッセージを発信。「山スカート」を世に広めた登山ブームの立役者として活躍する。著書『一歩ずつの山歩き入門』(エイ出版社)が発売4年目を迎え、現在も大好評発売中。子どものころから食いしん坊で、毎日のおやつは欠かさない。山おやつの定番は豆大福。一食入魂をモットーとし、ほとばしる情熱とたゆまぬ探究心、そしてあふれる食欲とともに日本の山や里を歩く。
>> ホームページ: www.respect-nature.com/
>> Facebook :  yuri.yosumi
>> Instagram :  yuri_yosumi

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