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2018.8.15

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大町登山案内人組合ガイドさんと行く、後立山連峰をめぐる山旅【Vol.1】

「山を想えば人恋し。人を想えば山恋し」-。登山を嗜む人はこの名句を一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。詠んだのは、歌人であり登山家の百瀬慎太郎だ。彼は大正6年に日本初の山岳ガイド組織「大町登山案内人組合」を長野県大町市で立ち上げた人物としても知られる。

この百瀬慎太郎ゆかりの地からはじまる後立山連峰をめぐる山旅。今回歩いたのは、立山黒部アルペンルートの玄関口である扇沢を起点に、針ノ木雪渓から蓮華岳、針ノ木岳、スバリ岳、赤沢岳、鳴沢岳、岩小屋沢岳、爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳を縦走するコース。はじめて歩く縦走路に、はじめて登る山々。山容の美しさに始終感動しっぱなしであった。
また、縦走路にある針ノ木小屋、新越山荘、種池山荘、冷池山荘では、山小屋のみなさんから温かなおもてなしを受け、山の懐深さ、そして人の温かさにもふれる濃厚な3日間となった。

 

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本連載では、1日目、2日目、3日目と、日ごとに分けて旅の工程を3回にわたって紹介していきます。
第1回目はスタート地点の扇沢から歩きはじめ、宿泊地となる針ノ木小屋までお送りします。

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信濃大町は北アルプス屈指の縦走路である後立山や裏銀座の登山口を数多く有する「岳のまち」。この街で100年あまりにわたって山を見守る国内最古の山岳ガイド組織・大町登山案内人組合に所属する矢口拓さんとのふたり旅は、梅雨明けの、カンカン照りの青空の下ではじまった。

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各地で猛暑が伝えられるなか、扇沢から約1時間、汗ばみながら着いたのは大沢小屋。立山黒部アルペンルート開通前には、信濃大町駅からの登山の中継地となっていた古い歴史を持つ山小屋だ。

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小屋に入ると陽の光が遮られ、ひんやりと涼しい。静かな時間が流れ、居心地の良い落ち着いた雰囲気が作り出されている。小屋の裏手には山の雪解け水が流れる水場、「苔沢の水場」がある。額から流れる汗を水場で拭い、手で掬い上げて口へ運んでみると、キーンと冷えた水が喉を潤す。

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「自慢の苔沢の水で淹れたコーヒーは格別ですよ」と、小屋番の吉岡卓身さん。新緑のなかにたたずむ静かな小屋で味わうコーヒー。疲れた体が癒される、格別な味わいだ。

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小屋の前の岩には、歴史を感じさせるレリーフが埋め込まれていた。隣には百瀬慎太郎の名句が刻まれ、建立者にアイガー東山稜を初登攀し、日本隊のマナスル初登頂を成功させた槇有恒の名も並んでいた。日本のアルピニズムが北アルプスで醸成されていったのだと実感する。
百瀬慎太郎は山案内人をまとめ組合を作ったほか、大沢小屋と針ノ木小屋を建設している。自身も登山家として北アルプスの冬季横断を成し遂げ、さらに歌人として、文筆家としても活動していた多彩な人だったようだ。営んでいた宿、「対山館」では多くの文人や登山家たちと交流したという。

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山の歴史に想いを馳せつつ、大沢小屋を後にした。小屋を出てまもなく、日本三大雪渓のひとつである針ノ木大雪渓が見えてきた。ひんやりとした風が吹きおろし、先ほどまでの暑さが引いていく。

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久しぶりの雪渓歩き。見上げる急斜面にひとたびクラリとしつつ、クランポンを食い込ませながら歩く感覚を一歩踏み出すたびに思い出す。

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針ノ木大雪渓は登りコースタイムで5時間ほど。深い青色の空を見上げ歩みを進めれば、谷間の木々が出迎えてくれた。柔らかなグリーンの新緑の木。矢口さんに聞けば、「針ノ木(はりのき)」の語源になった「ハンノキ」だという。私はてっきり針のような山だからだと思っていたので、まさか木の名前が語源とは思いもよらなかった。

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谷が狭まるノドを越え、春スキーも楽しめるという、マヤクボ沢との出合を過ぎ、急な斜面を登りきると針ノ木峠。ここに建つ針ノ木小屋の玄関からは槍ヶ岳まで続く北アルプス裏銀座の絶景が広がった。

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小屋のオーナーで百瀬慎太郎のひ孫である百瀬陽さんが笑顔で出迎えてくれた。矢口さんの家と百瀬家は古くからの仲といい、ふたりは世代を越えた縁があるようで、山の話が絶えない。
「父から小屋を引き継いで3年になりますが、登ってくるお客さんが楽しそうで、元気をもらっています」と百瀬さん。忙しい日々にくじけそうになったこともあったが、喜んでくれる登山者の笑顔を励みに、頑張っているという。

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お昼過ぎの、小屋で寛ぐにはまだ早い時間帯。百瀬さんに進められ、私たちは蓮華岳に足を伸ばしてみることに。小屋から穏やかな坂を上りながら、矢口さんの話に耳を傾けた。
「蓮華岳は麓の大町市にある若一王子神社の奥宮があり、さらに昔は神が降り立ったとされる神奈備(カムナビ)と呼ばれる信仰の山。美しい大きな山容が蓮華の様なんです」たしかに、蓮華岳は女性的で美しい、柔らかな山容。

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そこかしこには可愛らしい花々が咲き、柔和な山の雰囲気をいっそう際立たせている。どうやら矢口さんの話によると、例年ではもう時期が過ぎている花や、もう少し遅い時期に咲くはずの花も一斉に見ごろを迎えているようだ。森林限界より上で見られる植物特有の、小さく可憐な花々。こんなにも多くの種類の高山植物をいままで見たことがなかったので、なかば興奮気味であった。

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山の話や花の名前を教わりながら歩いていると、祠に着いた。山行の安全を祈願して、山頂へ。沿道を見やると、淡いピンク色に染まる地面。よくよく見れば、斜面には無数の花々が。あの、高山植物の女王と言われているコマクサだ。いままでにちゃんと見たことがなかったので、この花に出会えたことに喜びを隠せない。しかもこの数だ。

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山頂から「蓮華の大下り」と呼ばれる急な登山道を少し下ると、コマクサはさらに数を増す。一面のコマクサ畑だ。これには言葉を失ってしまう。
「国内最大のコマクサの群生地と言われているんです」と矢口さん。すごいものを見てしまったのだなぁと、しみじみと思う。今回は幸運なことにぴったりな時期に来れたものの、少し時期が違っていたら見ることができなかったかもしれないこの景色。山で出会えた人々もそうだが、花々もまた、一期一会だ。

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かわいらしい花たちの向こうには、明日から縦走する後立山の縦走路が続いている。ワクワクしながら小屋に戻り、こだわりのエビスの生ビールと夕食に舌鼓を打って、充実の初日は暮れていった。

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今回のルートは以下の通り。1日目は扇沢駅からスタートし、大沢小屋を経由、針ノ木大雪渓を越え、そして針ノ木小屋へ。針ノ木小屋に荷物をデポし、蓮華岳へとピストン。この日は針ノ木小屋泊となった。

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文◎矢口 拓 、阿部 静 Text by Taku Yaguchi,Shizuka Abe
写真◎後藤武久 Photo by Takehisa Goto

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