ピークス

2018.3.13

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筆とまなざし #081「テーホへ テホヘ――岩場の隣町で行なわれた花祭」

あれほど寒かったのに成田空港に降り立つとTシャツでも良い陽気。すっかり春になっていました。

ヨセミテ取材から帰国して2日後にクライミングに行きました。場所は愛知県の鳳来。日本有数の前傾壁のエリアで、ぼくも良く通っているところです。暖かくなってきたので、そろそろ登れるだろうと足を運んでみたわけです。

良く晴れた土曜日にも関わらず、訪れた「ガンコ岩」にはクライマーの姿はゼロ。時差ボケやら体重増やらで調子はイマイチでしたが、シーズン始めにのんびり登ることができました。

さて、その日は少し早めにクライミングを切り上げました。というのは、ずっと前から行ってみたいと思っていたお祭りが行なわれるからです。

鳳来のある新城市の隣町、東栄町とその近隣の村々では昔から「花祭」という神事芸能が行なわれています。東栄町では、11月から3月にかけての冬の期間に11の地域で行なわれて、3月3日から4日にかけてが今年最後の花祭でした。3日から4日にかけて……というのが特徴で、3日の午後1時に始まる神事は、休む間もなく夜通し行なわれ、翌朝10時頃ころに終わるというもの。クライマックスは深夜0時すぎ。山の神である鬼が大きな鉞を振りかざしながら登場する場面だといいます。

近くの温泉で汗を流して腹ごしらえをしてから、会場である集会所へ向かいました。すでにあたりは暗く、駐車場は車でいっぱいです。案内に従って集会所から坂道を下ると、笛と太古の音色が聞こえてきました。その音をたどると古い木造の祭場があり、光が溢れる祭場の周りを多くの人々が囲んでいました。外では焚き火が焚かれ、満月に近い月が空高く昇っています。

「テーホへ テホヘ」

懐かしさを漂わせる独特の唄。穏やかでやさしくて素朴な笛と太古のメロディ。しばらく見物していましたが、時差ボケによる眠気がピークに達し、車で仮眠して起きると午前1時近くになっていました。再び祭場へ向かうと、子どもたちが剣を振りながら舞を舞っているところでした。山深い小さな村の祭場。深夜、小学生と思われる子どもが舞う。それはもう神童としか思えない光景でした。決まった舞の形はあるのでしょうが、子どもたちの動きはそんな形式的な動きを超越していました。神がかっている。そう思わずにはいられません。舞が終わると、あたりがざわつき始めました。

「鬼が出るぞ」

どこからかそんな声が聞こえます。最初に登場した鬼は怖いというよりもどこか愛らしい表情。次の鬼はいくぶん仮面が大きくなり、最後に登場した鬼は厳つい大きな顔をして特大の鉞を持っていました。竃の周りを大きな鉞を振りかざしながら豪快に舞います。

「テーホへ テホヘ」

唄にも力がこもりだし、村人もいっしょに舞を舞う。凍てつく冬の深夜にいつからこのお祭りが繰り返されてきたのでしょう。厳かであるけれどもたのしげな村人たちの姿。力強い足踏みと唄声には、花祭への誇りと愛情が溢れていました。そしてそれはどこか儚げで、いま、この時代に自分も見られることが奇跡のように感じられました。

花祭を1冊の本にまとめたのは地元の画家で民俗学者の早川孝太郎でしたが、民俗学者の折口信夫は7回も通ったといいます。来年はもっと寒い時期に行なわれる花祭に、夜通し覚悟で参加してみたい。古より綿々と受け継がれてきた花祭は、なにか新しい旅のヒントをくれたようです。

 

【連載一覧はこちら!】

 

成瀬洋平
Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ。山を歩いて見聞きしたことを絵や文章で表現することをライフワークとする。雑誌への執筆のほか、展覧会や水彩画ワークショップも開催。雑木林の中に自力で制作した小屋で制作に取り組みながら、地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画などにも携わる。
ブログ http://d.hatena.ne.jp/naruseyohei
ウェブストア https://naruseyohei.stores.jp

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